貨物を輸出するにあたり、貨物の種類が輸出規制の対象となる場合(⇒輸出許可申請の要否をご参照ください)であっても、輸出令第4条第1項第1号、第2号、第5号、第6号に規定されている特例に該当する場合は、輸出許可の申請が不要となります。(注:武器(輸出貿易管理令別表第1の1の項)には適用されません。)

逆に言えば、上記の特例に該当する以外に輸出許可申請が不要になるケースはありません。また、輸出許可申請と税関への輸出申告は別の手続きのため、輸出許可申請が不要なケースであっても、税関への輸出申告はする必要がありますのでご注意ください。

ここでは、上記特例の中から、少額特例暗号特例無償特例のご説明をさせていただきます。

1.少額特例

本来は輸出許可の申請が必要となる輸出の場合であっても、輸出価格が一定額以下であるものについては輸出許可を得ずに輸出することが可能です。このことを少額特例といいます。

一定額は貨物により変わります。また、経済産業大臣から許可の申請をすべき旨の通知を受けた場合は少額特例の適用が不可となる他仕向地によっては用途等に条件が付きます。

少額特例(輸出令第4条第1項第五号特例)の適用範囲

少額特例の適用があるかどうかの判定をされる際の注意点としては、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 少額特例に定める総価額は、1回の輸出契約ごとに、その輸出貨物のうち輸出許可の対象となる貨物を輸出令別表第1 の各項のカッコ毎に区分けしたものの合計額となっておりますので、少額特例の適用の有無はこの総価額を基に判断します。
    少額特例の判断は、1回の輸出契約ごとに判断していきますので、輸出契約ごとに算出された総価額により少額特例の適用が不可と判断された貨物を、船積みを分割して少額特例を適用することは許されませんのでご注意ください。
  • 無償で輸出する場合でも総価額は0円とならず、税関の鑑定価格になります(輸出申告にあたっては取得価格、時価等をもって申告しますが、最終的には税関の判断になります)
  • 仮に少額特例の適用が不可と判断された場合は、貨物1個でも少額特例を適用して許可を得ずに輸出することはできません。つまり、少額特例の上限まで輸出できる訳ではなく貨物全部について少額特例の適用が否定されるのです。


2.暗号特例
政省令等改正(2012年8月1日施行予定)前においては、貨物が貨物等省令第7条第1号ハ又は貨物等省令第8条第9号、第10号又は第12号に該当するものであって、かつ、以下のイからハまでのすべてに該当する場合は、暗号特例の適用によって輸出許可申請が不要という扱いとなっていました。

イ 購入に関して何らの制限を受けず、店頭において又は郵便、信書便若しくは公衆電気通信回線に接続した入出力装置(電話を含む)による注文により、販売店の在庫から販売されるもの(外国でのみ販売されるものについては、当該販売の態様を書面により確認できるものに限る)ロ 暗号機能が使用者によって変更できないもの

ハ 使用に際して供給者又は販売店の技術支援が不要であるように設計されているもの

ですが、政省令等の改正により、規制対象であるが特例により許可不要となっている市販品暗号装置等については、規制対象品目から除外され、非該当化されました。

・輸出令第4条第1項第6号【政令】
・貨物等省令第8条第9号から第12号までの改正【省令】
・貿易外省令第9条第2項第14号ロの削除【省令】
・使用技術告示第3号の削除【告示】
・市販暗号告示の廃止【告示】
・運用通達の9の項【通達】
・役務通達の9の項【通達】


3.無償特例
無償で輸入し無償で返送する貨物や、後日無償で輸入する予定で無償で輸出する貨物については、輸出許可の申請は不要となっています。

無償特例に関する根拠規定については、「輸出貿易管理令第4条第1項第二号ホ・ヘ」、「無償告示」、「輸出貿易管理令の運用について4-1-2(5)」をご覧ください。

輸出貿易管理令
(特例)
第四条  法第四十八条第一項 の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。ただし、別表第一の一の項の中欄に掲げる貨物については、この限りでない。
二  次に掲げる貨物を輸出しようとするとき。
イ 外国貿易船又は航空機が自己の用に供する船用品又は航空機用品
ロ 航空機の部分品並びに航空機の発着又は航行を安全にするために使用される機上装備用の機械及び器具並びにこれらの部分品のうち、修理を要するものであつて無償で輸出するもの
ハ 国際機関が送付する貨物であつて、我が国が締結した条約その他の国際約束により輸出に対する制限を免除されているもの
ニ 本邦の大使館、公使館、領事館その他これに準ずる施設に送付する公用の貨物
ホ 無償で輸出すべきものとして無償で輸入した貨物であつて、経済産業大臣が告示で定めるもの
ヘ 無償で輸入すべきものとして無償で輸出する貨物であつて、経済産業大臣が告示で定めるもの

 

輸出貿易管理令の運用について
4-1-2 輸出令第4条第1項第二号の解釈及び取扱い
輸出令第4条第1項第二号の解釈及び取扱いは、次に定めるところにより行う。
(5) 輸出令第4条第1項第二号のホ及びヘに規定する貨物は、輸出令第4条第1項第二号のホ及びヘの規定に基づく無償で輸出すべきものとして無償で輸入した貨物及び無償で輸入すべきものとして無償で輸出する貨物を定める告示に定められているが、その取扱いは、次による。
(イ) 同告示第一号1に規定する「本邦から輸出された貨物であって、本邦において修理された後再輸出するもの」とは、本邦から輸出した貨物を本邦において修理するために輸入し、修理完了後当該貨物の本邦への輸出者に再輸出するものであって、修理した貨物が本邦から輸出したときの仕様から変更のないものをいい、修理には1対1の交換を含むものとする。
なお、当該修理が無償か有償かを問わないものとする。
(ロ) 同告示第一号2に規定する「映画撮影用の機械器具」とは、撮影機、録音装置、照明器具等の映画撮影用の機械及び器具(映画撮影に使用するトラックを含む。)をいう。
(ハ) 同告示第一号3に規定する「返送」とは、本邦において開催された博覧会等に外国から出品するため貨物を本邦に向けて輸出した者に対して、博覧会等の終了後その貨物を無償で輸出することをいう。
(ニ) 同告示第一号5に規定する「通関手帳により輸出するもの」とは、ATA条約に基づき外国の通関手帳発給団体により発給された通関手帳により輸出するものをいう。
(ホ) 同告示第二号6に掲げる国際間海底ケーブルの障害復旧及び障害防止のために輸出する復旧機材並びに修理船及びケーブル陸揚局で用いる機器類であって、当該障害復旧作業及び障害防止作業の終了後本邦に輸入されるべき貨物の範囲は、次による。
(a) 「復旧機材」とは、次の貨物をいう。
(ⅰ) ケーブル探査・埋設用無人潜水艇(操縦設備、揚降設備及び操縦索を含む。)及びこれらの附属装置
(ⅱ) ケーブル探線機、埋設機(動作監視装置及び曳行索を含む。)及びこれらの附属装置
(ⅲ) ケーブル探査用センサー(検出監視装置、曳行索を含む。)及びこれらの附属装置
(b) 「機器類」とは、次の貨物をいう。
(ⅰ) 伝送端局装置及びその附属装置
(ⅱ) 伝送特性測定装置及びその附属装置
(ⅲ) 連絡用通信機器及びその附属装置
(へ) 同告示第一号6から8までに規定する「一時的に入国して出国する者」とは、輸入令別表第2に掲げる「一時的に入国する者」が出国する場合をいう。
(ト) 同告示第二号7から9までに規定する「一時的に出国する者」とは、外国における滞在期間が家族を伴っている場合は、1年未満、その他の場合は、2年未満の予定で出国する者(一時的に入国して出国する者及び船舶又は航空機の乗組員を除く。)をいう。
(チ) 同告示第一号6から8まで及び第二号7から9までに規定する「税関に申告の上別送する」貨物は、後送については出国した者が出国した日から原則として6月以内に輸出するものについて認めるものとし、前送については出国者の旅券等により必ず出国することが確認できる場合に限る。
なお、本人が別送の申告をしない場合であっても、出国の事実及び出国者の所有に係るものであることが確認できる場合は、代理人が申告をして輸出することができる。

以下、無償特例の主要なものを挙げますので、参考にして下さい。

告示の号番等 内容 具体例

 

本邦から輸出された貨物であって、本邦において修理された後再輸出されるもの(北朝鮮を仕向地とするものを除く)
通関手帳により輸入された貨物であって、通関手帳により輸出されるもの
貨物等省令第2条第2項第2号又は第7号に該当するもののうち、内容物を輸入するため輸入した貨物であって、当該輸入終了後返送されるもの(イラン、イラク、北朝鮮を仕向地として返送される貨物を除く) 通い容器
一時的に出国する者が携帯し、又は税関に申告の上別送する貨物等省令第7条第1号ハに該当するもののうち、本人の使用に供すると認められるもの 海外出張で持って行くパソコン
一時的に出国する者が携帯し、又は税関に申告の上別送する貨物等省令第8条第9号から第13号までのいずれかに該当するもののうち、本人の使用に供すると認められるもの
10 貨物等省令第2条第2項第2号又は第7号に該当するもののうち、内容物を輸出するため輸出する貨物であって、当該輸出終了後本邦に輸入すべきもの(イラン、イラク、北朝鮮を仕向地として返送される貨物を除く) 通い容器

役務で許可が不要になる場合

日本から海外へ輸出をする場合、規制の必要となるのは、貨物だけではなく、技術も規制の対象となります。

しかし、以下の事例のようなプログラムや技術データについては、役務取引許可が不要になります。

例えばソースコードが公開されているなど、貿易外省令第9号の条件を満たす公知のプログラムは、役務取引許可が不要でネットワーク配信をすることができます。

また、工業所有権の出願や登録を行う為に、必要最小限の技術を提供する場合も許可が不要です。

貨物を輸出した後、その貨物の据え付けや操作方法の説明などの必要最低限の技術提供を、取引の相手に対して提供する行為は、役務取引許可が不要です。
ただし、その貨物の性能や特性が当初より向上するような技術提供や、修理技術であってその内容が輸出をする貨物の設計、製造技術と同等のものは許可が必要となります。これはプログラムの提供であっても同様です。
なお、プログラムの提供の場合は、誰でも制限を受けることなく購入できるように店頭販売(通信販売)されているものは許可不要です。

安全保障貿易管理の技術の提供における「貨物の使用のための必要最小限の技術」とは

安全保障貿易管理では、貨物の輸出や技術の提供において、輸出令別表第1や外為令別表に掲載されているものは、輸出や提供の際に許可が必要とされています。

しかし、技術については提供の際に許可が不要とされるケースがあり、「貨物の使用のための必要最小限の技術」は、そのケースのうちの1つです。

「貨物の使用のための必要最小限の技術」とは、貨物の輸出に付随して提供される使用に係る技術で、その貨物の据え付けや操作・保守や修理といった行為を行うために必要最小限のものを、貨物の買主・荷受人・最終需要者に対して提供される技術をいいます。
ただし、以下のような技術は対象外となるので、注意が必要です。

1)その技術を提供する事で、その貨物の性能が当初より向上するもの。
2)修理技術であって、その内容が貨物の設計や製造技術と同等のもの
3)外為令に掲載されている技術で、貨物の設計や製造に必要な技術が含まれているもの

これらに該当する技術は、「貨物の使用のための必要最小限の技術」として許可不要となります。

なお、提供の相手方は、貨物の買主・荷受人・最終需要者に限定されますのでご注意下さい。

外国の特許を取得するための技術資料の提供と役務取引許可


リスト規制・キャッチオール規制に係る技術(役務)のうち、経済産業省の許可が必要な技術に該当したものはその提供前に、許可を取得する必要があります。

しかし、中には公知の技術のように、許可を取らなくてもよいいくつかの例外もあります。

では、外国で特許を出願するための必要最小限度の技術を提供する場合には、経済産業省の役務取引の許可は必要になるのでしょうか?

じつは貿易外省令第9条第2項第十一号では、特許出願のために必要となる最小限度の技術を提供する場合には、経済産業省の役務取引許可は不要とされています。
不要になるのは特許出願のための提供だけではなく、実用新案、意匠、商標登録のための技術提供も同様に、役務取引は不要とされています。

また、特許や実用新案、意匠、商標登録以外でも、国際標準や各国政府機関が定める技術水準に適合することを明確にすることを目的としたデータ提供の場合は、提供されるすべてのデータが公開される場合に限り、役務取引許可は不要となります。